円安は続くよ、どこまでも?私が考える資産防衛術

ドル円は2026年7月28日時点で163円台後半、39年ぶりの円安水準となりました。私は「円安 いつまで」というキーワードでいくつかの記事を書いていますが、だいたいは「円安は長期化する」という結論になっています。
松田聡子 2026.07.28
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「円安はいつまで続くのか」と言われ始めてから今に至るまで本格的に円高に転じることはなく、むしろ円安の進行スピードが上がっているようです。それほどに今の円安の根は深く、私たちは円安インフレ継続を前提に資産運用をする必要があります。

「総裁が変われば円安は収まる」という期待は的中しなかった

2022年頃、急激な円安が進む中で「黒田総裁から新しい総裁に変われば、過度な緩和路線も見直され、円安は縮小するのでは」という期待が、市場でも語られていました(マネー記事の「円安 いつまで」のアンサーの一つにもなっていました)。黒田総裁時代は急激な円安局面でも政策変更にほとんど動かなかったため、次期総裁への期待が高まるのは自然な流れでした。

そして2023年に就任した植田総裁は、その期待に応える形で2024年にマイナス金利解除、YCC(イールドカーブ・コントロール)撤廃を実行しました。方向性としては「総裁交代が政策転換のきっかけになる」という読みは的中したわけです。

しかし結果はどうだったでしょうか。2026年7月時点の円相場は1ドル=162〜163円前後で推移し、一時163円台と1986年12月以来、約39年7カ月ぶりの安値を更新しています。日銀は2026年6月に政策金利を1.00%まで引き上げましたが、円安の流れを反転させるには至っていません。「総裁交代=円安解消」という図式は、残念ながら成立しなかったのです。

円の一人負けと、そこに絡む高市政権の財政政策

円は対ドルだけでなく対ユーロでも独歩安の状態が続いており、主要先進国通貨の中で比較すると、円の弱さは突出しています。実際、実質実効為替レートという、多通貨と比べた円の総合的な強さを表す指標は低下し続けています。

出所:主要時系列統計データ表/日本銀行より筆者作成

出所:主要時系列統計データ表/日本銀行より筆者作成

一般的に円安の原因としては、2国間の金利差(日本のほうが低金利なので売られやすい)や日本の貿易赤字の常態化などが挙げられます。しかし、単なる金利差の縮小や貿易収支の改善だけでは、現在の円安を反転させるには不十分です。日本の財政悪化は、金融政策の自由度を制約し、円安を長期化・構造化させる根深い要因になっているといえます。

高市政権下での「責任ある積極財政」は、財政赤字を拡大させ、新規国債発行の増加を通じて債券需給を悪化させ、長期金利上昇を招いています。これが円安と債券安を同時に引き起こす悪循環につながっていると指摘されています。

さらに深刻なのは、この財政懸念が日銀の金融政策の自由度を奪ってしまう点です。財政運営への不安は、日銀が利上げに踏み切りにくくする要因となり、結果として日米金利差が縮小しにくい状況を作り出しています。つまり、「金利差を縮めれば円高になる」という単純な図式自体が、財政悪化によって機能しにくくなっているのです。

現在、円安阻止に向けて政府と日本銀行が緊密に連携できる政治環境にはない、との分析もあります。高市首相は円安のメリットに注目し(「円安ホクホク」発言など)、食い止めようとする強い意志はなさそうです。そのため、日銀は景気への悪影響を警戒して、利上げを制限されていると考えられています。この政策の不整合は金融市場にも見透かされており、円安阻止に向けては、政府が積極財政政策を修正すること、日銀の利上げを牽制するのをやめることが一定程度は効果を発揮するのではないか、と指摘されています。

つまり、金利差の縮小や為替介入といった対症療法だけでなく、財政拡張路線そのものの修正が求められているのです。

いつまで続くかわからない、さらなる円安の懸念も

円安がいつ終わるのかを予測することは、誰にもできません。日米金利差は縮小しないばかりか、中東情勢の緊迫化による「有事のドル買い」なども重なり、為替は不安定な展開を続けています。

物価上昇が国民生活への懸念として重くなれば、日銀がさらなる利上げに動く可能性もありますが、それが直ちに円高への反転を意味するわけではないのは明らかです。「円安解消は簡単ではない」どころか、財政・金融両面の不確実性を考えると、さらなる円安への警戒さえ必要な状況といえます。

円安ホクホクはあり得ない――物価は上がり、円資産は目減りする

円安には輸出企業の業績向上やインバウンド需要の拡大といったメリットがあるのも事実です。しかし、個人の生活実感としては、それを上回るデメリットの方が大きいはずです。2026年5月の全国消費者物価指数(総合)は前年同月比1.5%の上昇となり、物価高が続いています。賃金の伸びが物価に追いつかない限り、実質的な購買力は着実に削られていきます。

さらに見落とせないのが、先述した実質実効為替レートで見た円の「実力」の低さです。名目の対ドルレートだけでなく、複数通貨・物価変動を加味した指数で見ても、円の購買力低下は進んでおり、低金利の円預金だけで資産を持つことのリスクは年々高まっています。円安を「ホクホクと喜べる」立場の人は、実は限られているのです。

単なる円安ではない?通貨そのものの「価値の目減り」

「円がダメならドル」と、円安対策でドル建ての預金などの外貨投資を考える人もいるでしょう。

しかし、円の一人負けのために気づかれにくいのですが、実は先進国通貨全体の価値も下がっているのです。財政赤字の拡大と金融緩和の恒常化は、日本だけでなく多くの先進国が抱える共通課題であり、購買力平価で見れば、米ドルに対して割高な通貨はスイスフランなどごくわずかです。「先進国通貨だから安泰」という前提そのものが、今の世界では成立しにくくなっています。

だからこそ、他の通貨に乗り換えれば安心、という単純な話にはなりません。通貨という枠組み自体が構造的に弱くなっている以上、通貨そのものを持ち替えるよりも、価値の裏付けを持つ資産で保有するほうが、より本質的な防衛になると私は考えています。

通貨価値の目減り対策で注目される実物資産への投資

通貨の供給量が増え続ける環境では現金の購買力が徐々に低下していく一方、供給量が限られている金のような資産は、長期的に価値を維持しやすいと考えられています。そのため、実際に通貨価値が下落した局面では、相対的にこれらの資産の価値が上昇し、資産全体の価値を守る効果が期待できます。

2025年に金が大きく値上がりしたのは、「通貨の価値が下がりそうだ」という予測のもとで、通貨価値の希薄化の影響を受けにくい資産へ資金を避難させる投資行動の現れだったといえるでしょう。

金投資に関して、金の専門家として知られる豊島逸夫氏の興味深い記事を発見しました。

財務省や日銀を退官した友人たちから資産運用の相談を受けるのだが、なかでも日銀OBのグループが、金に強い関心を示すというのです。しかも、もう買うと決めているので、質問は「いつ、どこで買えばよいか」という具体的なものだったといいます。

このとき金は、すでに史上最高値の水準にありました。普通なら手を出しにくい場面です。それでも彼らは買うというのです。「通貨を守る仕事をしてきた人たちが自分の老後の資産となると金を持ちたがる」というのは、示唆に富んでいると思います。

とはいえ、金も2026年に入ってから、最高値をつけたあと2割ほど下げる場面がありました。右肩上がりで上がり続けるものなど、どこにもありません。一方向への極端な資産シフトは避けるべきでしょう。

ただ、今まで金や不動産などの実物資産と無縁だった人は、ポートフォリオに加える価値はあると思います。

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