第3号廃止に賛成。けれども、いまの議論は現役世代の分断をいたずらに煽るだけではないか

会社員に扶養される専業主婦などの「第3号被保険者制度」の縮小の議論が進んでいます。私は第3号は廃止すべきと考えてきました。けれども、それはあくまで社会保障制度改革全体の一部であり、「木を見て森を見ず」になってはいけないと思っています。
松田聡子 2026.07.21
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「主婦年金」とも呼ばれる第3号被保険者制度の見直しが、いよいよ本格化しています。もともと、私はこの制度の廃止に賛成です。それでも、今の議論の進み方は、わざと反対の立場の人(専業主婦・パートとフルタイム労働者など)の対立を煽って、本来の公的年金の持続のためにやるべきこと全体から目をそらすように仕向けられているのではないかと疑っています。

第3号被保険者制度見直しの現在地

第3号被保険者制度とは、会社員や公務員(第2号被保険者)に扶養される配偶者で、自ら保険料を納めることなく基礎年金(国民年金)を受け取れる仕組みです。2025年に成立した年金制度改正法では、制度そのものの一律廃止は見送られました。

その一方で、パートなどの短時間労働者への厚生年金適用を広げる方向は明確で、いわゆる「106万円」と呼ばれてきた賃金要件の撤廃や、勤め先の企業規模要件の段階的な撤廃が決まっています。週20時間以上働く人は、収入や勤務先の規模にかかわらず、順次「自分で保険料を納めて2階建ての年金を受け取る」第2号被保険者になっていく。つまり制度は正面から廃止される代わりに、外堀から静かに縮小されているのです。

自民党と日本維新の会の連立政権合意書には、第3号被保険者制度について2026年度中に具体的な制度設計を行うと明記され、今年4月には両党が対象者を縮小する方向で一致したと報じられています。経済界だけでなく、労働側の連合までもが見直しを求めて足並みをそろえている状況で、議論の重心はすでに「廃止か存続か」ではなく、「いつ、どう縮めるか」に移りつつあります。

私は、働き方や家族のかたちがこれだけ多様になった以上、年金は一人ひとりが自分の名義で保険料を納め、自分の名義で受け取る「個人単位」の制度に向かうべきと考えています。第3号被保険者が受け取る基礎年金は現状、独身の会社員も共働き夫婦も含めた厚生年金の加入者と事業主の全体が、拠出金というかたちで広く薄く肩代わりしている構造です。負担なき給付が制度の中に恒久的に組み込まれていること自体、もう時代に合わないといえます。その意味で、廃止の方向性そのものに異論はありません。

3号の制度や見直し論が現役世代の分断を生んでいる

SNSや報道を眺めていると、この議論はしばしば制度の是非を超えて、人と人との対立のかたちを取り始めています。

自営業者の配偶者は自分で国民年金保険料を納めてきたのに、会社員の配偶者はなぜ納めずに済むのか。フルタイムで働き、毎月の給与明細から保険料を天引きされる共働き世帯やひとり暮らしの会社員が、「なぜ私ばかり払うのか」という思いを扶養内で働く人に向ける。どちらの疑問も、制度の設計に対する問いとしてはまっとうです。しかし矛先が制度ではなく「得をしているように見える隣人」へ向かった瞬間、議論は不毛な叩き合いに変わります。

そして、当然のことながら、第3号被保険者の当事者の多くは制度の現状維持を望んでいます。不公平との指摘には、「子育てや家事労働も評価すべき」との反論もあるようです。いずれにしても、これまでなかった年金保険料の負担が加わるのは、簡単に受け入れられないのは当然といえるでしょう。

「3号はズルい」という前に目を向けるべきこと

第3号被保険者制度は不公平で不合理ではありますが、問題の本質はそこではありません。国は、短時間労働者の社会保険加入を促進するために「手取りは減っても将来の年金は増えます」と訴えています。しかし、それは本当でしょうか。

ここで、厚生年金のコストパフォーマンスを試算してみましょう。なお保険料は労使折半ですが、事業主負担分も実質的には人件費として労働者のために支払われているお金とみなし、労使合計で計算します。

月収8.8万円で厚生年金に1年間加入すると、労使合計の保険料は年間約19.3万円。これによって増える将来の年金(報酬比例部分)は、終身で年約5,800円です。単純計算で、払った保険料を年金の増加分で回収するには約33年かかり、65歳から受け取り始めた場合の損益分岐点は98歳前後です。女性の65歳時点の平均余命はおよそ24年ですから、平均的な寿命まで生きても、戻ってくるのは払った保険料の7割程度にとどまります(税や将来の給付調整、障害・遺族年金などの保障は考慮しない名目の試算です)。

なぜこうなるのかというと、日本の公的年金は積立方式ではなく、現役世代が納めた保険料をそのまま今の受給世代への給付に充てる賦課方式だからです。パートで働く人が新たに納める保険料の大半は自分の将来のためではなく、いまの高齢世代の給付と制度の維持に使われます。現役世代が「報われない」のは、「3号の人がズルいから」ではなく、この構造そのものにあります。3号が2号になっても、年金保険料が下がることはありません。

問題の本質は「マクロな世代間格差」

130万円の壁をどうするか。3号をいつ、どこまで縮めるか。これらは結局、現役世代から保険料を多く徴収するのが目的です。現役世代内の対立が感情的になると、「現役世代の負担が増える」という事実が見えにくくなります。本来、考えなくてはならないのは社会保障の持続可能性についてです。

現役世代からの「集金」は、社会保険の適用拡大というかたちで着々と進んでいます。一方で、給付の側の調整、たとえばマクロ経済スライドによる年金水準の抑制は、名目額を下げないという下限措置や選挙への配慮に阻まれ、微細な調整にとどまってきました。負担増は速く、給付削減は遅い。この非対称を放置したまま第3号だけを廃止しても、それは「不公平に見える層からの徴収強化」に終わり、若い世代の制度への不信は一段と深まるだけです。

誤解のないように書き添えますが、これは高齢者を責める話ではありません。問われているのは個人ではなく、調整を先送りできてしまう仕組みと、それを長く放置してきた政治の側の責任です。第3号の廃止は、給付と負担の全体をどう作り直すかという設計図の中に位置づけられて、はじめて意味を持ちます。

現役世代の分断の先へ

同じ世代の中で「誰がずるいか」を探し合っているかぎり、本丸の議論は始まりません。そしてその叩き合いは、給付側に切り込むという最も痛みを伴う決断を先送りしたい側から見れば、都合のよいガス抜きでもあります。

制度の過渡期には、目の前の特例や政局的なパフォーマンスに目を奪われがちです。けれども私たちが見極めるべきは、第3号廃止の「その先」、つまり社会保障全体の給付と負担がどう再設計されるのかという一点です。専業主婦もパート労働者、フルタイム労働者も同じ制度の下で未来を生きる、同じ側の人間です。怒りを向けるべき相手を間違えないこと。それが、社会保障改革の入り口で、私たち現役世代がまず確かめておくべきことだと思うのです。

世代間格差は、ファイナンシャルプランナーになりたての頃から注目してきたテーマです。対立を煽るつもりはありませんが、次世代にツケを回さないために私たちにできることはないか、考えていきたいと思います。

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※この記事の制度動向は2026年7月時点の政府公表資料および報道に基づいています。試算は標準報酬月額8.8万円、厚生年金保険料率18.3%(労使合計)、給付乗率5.481/1000による名目額の概算であり、税・社会保険料控除、マクロ経済スライドによる将来の給付調整、障害厚生年金・遺族厚生年金等の保障は考慮していません。

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