保険料の値上げで見落としがちな、火災保険の保険金額が足りないリスク

毎年のように上がっている火災保険の保険料。そのために保険料の節約方向にばかり目が向きがちですが、建物の建築費のインフレを忘れていませんか?今回は火災保険の保険金額の最適化のお話です。
松田聡子 2026.07.06
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ここ数年、台風などの自然災害で火災保険が毎年のように値上げされ、2026年10月も損保ジャパンなど一部の保険会社の保険料改定が予定されています。保険料が値上がりすると、少しでもムダな補償を削る方向に目が向きがちです。しかし、忘れてはならないのが、最近の建築費の高騰です。もし、火事で家が全焼したときに、今までと同じ保険金額で同等の家を再築できるか。建築費の値上がりを踏まえた保険金額の見直しも必要です。

保険料の値上げで見えにくくなる、「過少保険」という静かな落とし穴

火災保険の更新案内が届くと、多くの人はまず保険料を確認するでしょう。「保険料が上がるから、補償の見直しをしなければ」と思ったときに考えているのは、「補償の削減」ではないでしょうか。けれども、いざというときの補償である以上、保険金額は保険料以上に重要です。

火事で家が全焼した場合、加入している火災保険から保険金が支払われます。しかし、設定していた保険金額によっては、同じ家を建て直せないことも起こりえます。前契約と同条件で漫然と更新するだけでは、いざというときに十分に役立たないかもしれないのです。

上がっているのは、保険料だけではありません

火災保険料はここ数年、値上げが続いてきました。2023年6月に損害保険料率算出機構が、保険料のベースとなる参考純率を全国平均で13.0%引き上げると発表し、これは過去最大の改定幅でした。大手各社はこれを2024年10月以降の契約に反映しています。さらに先述したとおり、2026年10月にも、損保ジャパンやソニー損保といった一部の会社が改定を予定しています。

しかし、火災保険に関連する変化は、それだけではありません。。建物を建て直すのに必要な費用(再調達価額)が、年々上がっているのです。

家を建て直す費用は、この10年で約3割上がりました

国土交通省が毎月公表している「建設工事費デフレーター」という公的な指標があります。住まいの工事費がどれくらい変動したかを示すもので、その住宅総合の値を見ると、2016年4月の93.3から、直近2026年4月には125.6まで上がっています。この約10年で、およそ34.6%の上昇です。とりわけ2021年から2022年にかけて、ウッドショックや資材価格の高騰、人手不足による人件費の上昇が重なって急角度で跳ね上がり、その後も高い水準のまま、足元ではむしろ再び上昇しています。

国土交通省「建設工事費デフレーター(2020年度基準)」住宅総合(e-Stat、2026年4月公表分)

国土交通省「建設工事費デフレーター(2020年度基準)」住宅総合(e-Stat、2026年4月公表分)

仮に2016年に2,000万円で建てた家があるとします。同じ家をいま建て直そうとすると、単純に計算しておよそ2,690万円かかることになります。10年間で690万円も増えているのです。

「保険金額」が再建費に届かないと、何が起きるか

火災保険で建物の保険金額を決める基準には、「新価(再調達価額)」と「時価」の二つがあります。新価は同じ建物をいま建て直すのに必要な金額で、時価はそこから経年劣化による目減り分を差し引いた現在の価値です。現在は新価で契約するのが一般的ですが、1998年の保険自由化より前から続く古い契約では、いまだに時価で評価されているものが残っています(以前は36年などの長期契約があったのです)。時価契約だと、評価額そのものが新価よりさらに低くなるため、注意が必要です。

そして肝心なのは、保険金額がいまの再調達価額に届いていないと、「過少保険」という状態になることです。火災保険の保険金は、支払われる上限が保険金額で決まります。全焼・全損のとき、たとえ損害額どおりに支払う実損払いの契約であっても、受け取れるのは保険金額が上限です。そこが再建費に足りなければ、その差額は自己負担になってしまいます。

先ほどの例なら、評価額が2,690万円に上がっているのに、保険金額を2,000万円のまま据え置いていれば、差の690万円は自分で工面しなければなりません。

火災保険が足りないと、地震保険の備えまで細くなります

この過少保険の影響は、地震保険にも及びます。地震保険は単独では契約できず、火災保険にセットして加入する仕組みです。しかもその保険金額は、火災保険の保険金額の30〜50%の範囲内と定められています(上限は建物5,000万円、家財1,000万円)。つまり、土台となる火災保険の保険金額が小さいと、その上に乗る地震保険の備えまで、自動的に細くなってしまうのです。

先ほどの例で言えば、火災保険を2,000万円のまま据え置いていると、地震保険はどんなに手厚くしても上限は1,000万円、火災保険金額の50%にとどまります。もし火災保険を再調達価額の2,690万円まで見直していれば、地震保険は1,345万円まで設定できたはずです。地震保険をセットする世帯が7割を超える現在、火災保険の保険金額の点検は、地震への備えにつながります。特に住宅ローンの残債が多いうちは、保険料の節約ばかり考えず、保険金額を最適化してほしいものです。

見直しを提案してくれる保険会社も

保険会社の中には、建築費や物価の上昇を踏まえて建物の保険金額の見直しを提案してくれるケースもあります。たとえばソニー損保は2026年10月の改定で、建築費や物価の上昇を踏まえて建物の評価基準を見直すと告知し、それによって継続時に保険金額が変わる場合があるとしています。東京海上日動も、自動更新の際に建物の保険金額(支払いの限度額)を見直すと案内しています。

最終的な保険金額は契約者が決めるため、保険会社に案内された保険金額のとおりに契約しなければならないわけではありません。しかし、ほとんどの契約者は、保険金額の増額など眼中にないでしょう。もし、このような提案があれば、積極的な保険金額の見直しをおすすめします。

確かめるのは、更新のときの数分間だけ

保険金額の見直しは、それほど難しくはありません。更新の通知が来たタイミングで現契約を確認してみましょう。

いまの契約は、新価でしょうか、それとも時価でしょうか。保険金額は、いまの再調達価額に見合っているでしょうか。再調達価額は、延床面積に1平方メートルあたりの単価を掛けたおおよその額で、ざっくり見当をつけられます。住宅ローンを借りたときに、その借入額をそのまま保険金額にしてはいないでしょうか。増築やリフォームをした後、金額を直したでしょうか。これらのうちのどれかが引っかかったら、取扱いの代理店や保険会社に相談してみてください。

ムダな補償の削減も必要ですが、「いざというときに家を建て直せる保険金額」はより重要です。

家事で家が全焼するケースは縁起でもないし、発生しない可能性のほうが高いです。だからこそ起きたときの経済的なダメージは特大なので、軽く見ないで不足のない保険金額を設定してください。

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【参考・出典】

【免責事項】本記事は2026年7月4日時点で確認できる情報に基づいています。保険料・補償内容・評価基準は今後改定される場合がありますので、契約内容の詳細は各保険会社・取扱代理店の最新の案内をご確認ください。

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