誰も住まない実家処分の救世主、相続土地国庫帰属制度の実態
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私は群馬県高崎市でFP相談をしていますが、高崎に住んでいる方の実家の空きや問題の相談もチラホラ受けるようになりました。ご自身が山間部の出身でご両親が亡くなって実家が空き家になり、兄弟が遠くに住んでいてなかなか処分の話が進まない、といったお悩みです。
最近は都市部の不動産価格の高騰が話題になりますが、その一方で二極化が進み、高崎市内であっても郊外では買い手がつかないであろう土地はたくさんあります。おそらく地方はみな同じような状況のはずです。そして空き家になった実家が市内でもなく、山間部の集落のような場所だったりすれば、処分が難航するのは目に見えています。
だからといって親が元気なうちは、実家の処分の話など切り出しにくいものです。人としての情もありますし、日々の仕事や子育てに追われていれば、後回しになるのも無理はありません。しかし、両親が亡くなると、否応なしに空き家となった実家の処分を考えなければならなくなります。さらに、残されるのは家だけではないケースもあります。田畑があり、山林があり、相続人は途方に暮れることになります。近年は太陽光発電の事業者が農地や山林を買い取る例も見られますが、それはあくまで条件の合う一部の土地の話で、買い手がまったく現れない土地のほうがずっと多いのが実情です。
空き家を「放置できない」時代になった
かつては、売れない実家を相続登記もせず、事実上放置しておくことも珍しくありませんでした。しかし、その選択肢はすでに塞がれつつあります。2024年4月から相続登記が義務化され、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請しなければ、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象となりました。名義の放置が、法律上許されなくなったのです。
管理の放置にも網がかけられています。空家等対策特別措置法により、倒壊のおそれなどがある「特定空家」に指定され勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例が外れ、土地の税負担が大幅に跳ね上がりえます。住宅が建つ土地の固定資産税は特例で軽減されているため、「壊すと税金が上がるから」と空き家を残す判断がかつては合理的でした。しかし放置すればその特例ごと失いかねない仕組みになり、2023年の法改正では、特定空家の前段階である「管理不全空家」も指導・勧告の対象に加わりました。相続した以上、名義からも管理からも逃げられないというのが、今の制度環境です。
国庫帰属制度は「実家をそのまま」引き取ってはくれない
そこで注目されるのが、2023年4月に始まった相続土地国庫帰属制度です。相続や遺贈で取得した土地を、法務局の審査を経て国に引き取ってもらえる制度で、買い手のつかない土地を抱えた相続人にとって、たしかに有力な選択肢の一つです。
ただし、この制度が引き取るのは「土地」であって、「空き家」ではありません。建物が建っている土地は申請しても却下されます。つまり空き家になった実家でこの制度を使うには、相続人が自らの費用で家屋を解体し、更地にすることが前提となります。解体費用は建物の構造や立地によって大きく異なりますが、昨今の工事費の上昇もあり、百万円単位の負担となります。
さらに更地にしても、審査に通れば終わりではありません。申請時に土地一筆あたり1万4000円の審査手数料がかかり、承認された後には10年分の土地管理費相当額として原則20万円からの負担金を納める必要があります。市街化区域内の宅地や農用地区域の田畑、森林などは面積に応じた算定となるため、広い土地ではさらに高額になります。実際、2024年8月末までに納付された負担金が20万円を超えたケースは236件、うち100万円を超えたものも50件ありました。高額の負担金を払ってでも土地を手放したい、と考える人が相当数いるということです。
つまり、国に「タダで引き取ってもらう」制度ではなく、まとまったお金を払って土地の管理責任から解放される制度という意味合いです。それでも、固定資産税や草刈りなどの管理費用を将来にわたって負担し続けることと比較して、利用する価値があると判断する人が着実に増えています。
運用3年、数字が語る制度の現在地
法務省の統計によれば、2026年5月31日現在(速報値)で申請件数は5545件、実際に国庫帰属に至ったのは2762件です。地目別の申請では田畑が2169件と最も多く、宅地1916件、山林850件と続きます。まさに「実家と田畑と山」という地方の相続の風景そのものです。
一方、制度開始前後から法務局が受け付けた事前相談は、2024年8月末時点でのべ3万2943件にのぼります。相談件数に対して申請件数が大幅に少ないのは、境界がわからない山林や建物が残ったままの実家など、申請しても却下が確実な事案について、法務局の担当者が相談段階で承認は難しいと案内しているためです。手数料を払って無駄足を踏む前に交通整理をしてくれる、丁寧な運用といえます。なお、相談が特に多いのは東京・名古屋・横浜といった大都市の法務局で、その大半は管轄外の地方の土地に関する相談だそうです。都会に出た子が、田舎の実家について相談するといった、この制度の利用者像が浮かび上がります。
興味深いのは取下げの多さです。1023件の取下げのうち546件は、申請をきっかけに自治体の活用が決まったり、隣接地の所有者が引き受けを申し出たりと、有効活用の見込みが生じたことによるものでした。申請という行動そのものが、買い手の付かない土地に「引き取り手」を見つけるきっかけとなったわけです。
利用したいときは、法務局の事前相談から
制度の利用を考えるなら、入口は全国の法務局・地方法務局の本局で受け付けている事前相談です。対面でも電話でも相談でき、土地の登記事項証明書や現地の写真などを持参すれば、却下・不承認要件に当たりそうかどうか、具体的な見通しを聞くことができます。境界の確認や書類の準備に不安があれば、司法書士などの専門家の力を借りるのも一つの方法です。
できれば親が元気なうちに兄弟間で合意形成をしておく
繰り返しになりますが、親はあっけなく亡くなります。そして解体費用を誰が出すのか、仏壇や家財をどう整理するのか、田畑や山林まで含めてどう始末をつけるのかは、兄弟姉妹の協力なしには一歩も進みません。遠く離れて暮らす兄弟間では、こうした話し合いはなかなか難しいかもしれません。
しかし、人口減少が進むこの国で、流通のない土地の処分はこれからますます厳しくなるのは間違いないでしょう。国庫帰属制度という救済策ができた今だからこそ、それを使うにも百万円単位の準備が要るという現実を、家族で共有しておく必要があります。次の帰省のとき、実家の将来を話題にしてみてはいかがでしょうか。
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【参考資料】
・法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」(令和8年5月31日現在・速報値) https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00579.html
・清水慶徳「相続土地国庫帰属制度の運用状況等について」RETIO No.135(2024年秋号) ・法務省「相続土地国庫帰属制度について」
※この記事は制度の全体像をつかんでいただくためのものです。相続や不動産をめぐる事情は一軒ごとに違い、ここに書いた費用や要件がそのままあてはまるとは限りません。最終的にどうするかはご家族それぞれの答えがあるはずで、その判断材料の一つとしてお使いいただければ幸いです。具体的な手続きは、法務局や司法書士・税理士など専門家にご確認ください。
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