商品を売らないFPの現場から――「売り手の論理」と「買い手の最適解」はなぜすれ違うのか
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私はファイナンシャルプランナーとして、個人のお金に関する相談を有料で受けています。相談料は、私が把握している限りでは群馬県内でもかなり高い部類に入ると思います(特に高額ではなく、他の方が安いだけだと思っていますが)。
それでも相談に来てくださる方がいます。
最近、住宅購入を考えている方から、こんな話を聞くことが増えました。
「ハウスメーカーでもFPを紹介してくれますが、結局は家を買う方向に話を持っていかれるのではないかと思って、関係のないFPを探しました」
なるほど、と思います。
今は、お金について無料で相談できる場所がたくさんあります。保険ショップでは無料で保険相談ができますし、住宅展示場やハウスメーカーからFPを紹介してもらえることもあります。銀行に行けば住宅ローンについて説明してもらえます。
それなのに、わざわざお金を払ってアドバイスを受ける意味はどこにあるのでしょうか。
FP相談の本質は、専門家に「自分の立場から考えてもらうこと」ではないかと考えています。
売り手が利益を追求するのは当然のこと
保険会社は保険を販売して利益を上げる会社です。住宅メーカーは住宅を建ててもらうことで利益を上げます。銀行は住宅ローンを利用してもらえば収益になります。
これは決して悪いことではありません。
営利企業なのですから、自社の商品やサービスを販売して利益を上げるのは当然です。営業担当者も、顧客に損をさせようと思って商品を勧めているわけではありません。
ただし、「自社の商品を使うことを前提に考える」のと、「そもそもその商品が必要なのかというところから考える」のとでは、出発点が違います。
保険会社で相談すれば、基本的には「どの保険に入るか」という話になります。
住宅メーカーに相談すれば、「どの家を建てるか」「どうすればその家を買えるか」という方向に話が進みます。
銀行で住宅ローンについて相談すれば、「借りるとすれば、どの商品にするか」が中心になるでしょう。
しかし、相談者にとって本当に必要なのは、その一歩手前の判断かもしれません。
「保険に入る必要があるのか」
「この価格の家を買っていいのか」
「借りられる金額ではなく、いくらなら返していけるのか」
「住宅ローンを組むこと自体が、自分にとって本当に有利なのか」
こうした問いは、商品を売る側からはどうしても出にくくなります。
消費者には「その提案が自分に必要なのか」がわからない
金融商品や住宅が難しいのは、売り手と買い手の間に大きな知識差があることです。経済学では「情報の非対称性」と呼ばれます。
一般の人が生命保険に加入したり、住宅ローンを組んだりする機会は、一生のうちにそれほど多くありません。
一方、販売する側は毎日のように商品を扱っています。
その差がある以上、説明を受けた消費者が、その場で提案の妥当性まで判断するのは簡単ではありません。
たとえば、独身で扶養家族のいない人に高額な死亡保障を勧められたとします。
死亡保険そのものが悪いわけではありません。しかし、その人が亡くなったときに経済的に困る家族がいないのであれば、大きな死亡保障を優先して持つ必要性は高くないかもしれません。
住宅では、さらに金額が大きくなります。
最近、住宅購入について相談を受けた方の中に、「今の家計で家を買っても大丈夫か」を確認したいという方がいました。収入などの属性から見れば住宅ローンの審査には通る可能性が高く、住宅会社に相談すれば、そのまま購入に向けて話が進んでいたかもしれません。
しかし、現在の家計だけでなく、今後の収支やライフプランまで含めて考えると、私の結論は「今は購入しないほうがいい」というものでした。もともと「どうすれば家を買えるか」ではなく、「買っても大丈夫か」を知りたいという相談だったため、その結論にも納得していただけました。
住宅ローンは、審査に通ることと、無理なく返済を続けられることが同じとは限りません。購入時には何とか返せそうに見えても、教育費や老後資金、今後の働き方などを考えれば、住宅にお金をかけすぎることで、その後の選択肢を狭めてしまうこともあります。
とりわけ住宅価格が上昇傾向にあり、金利の動向にも注意が必要な現在は、「いくら借りられるか」ではなく、「住宅購入後も無理のない家計を維持できるか」という視点がこれまで以上に重要です。
また、住宅については相談するタイミングが非常に重要だと感じます。
住宅を取得する前であれば、購入そのものを見送る、購入時期を遅らせる、物件価格を下げる、頭金を増やす、借入額を減らすなど、さまざまな選択肢があります。
ところが、家を買い、住宅ローンの返済が始まってから「毎月の支払いが苦しい」と相談されると、できることはどうしても限られてしまいます。
家計のほかの支出を減らす、借り換えを検討する、場合によっては住宅を売却するといった方法はありますが、購入前のように自由に資金計画を組み直せるわけではありません。
だからこそ住宅については、「困ってから相談する」のではなく、購入を決める前に一度、資金計画を確認しておく意味が大きいと思っています。
住宅ローンは何十年にもわたって家計に影響します。住宅にお金をかけすぎれば、その後の教育費や老後資金だけでなく、転職や働き方など、人生のほかの選択肢にも影響する可能性があります。
住宅会社や金融機関が「どうすれば買えるか」を考えるのは、それぞれの仕事として当然です。一方で、「今は買わない」という選択肢まで含めて考える第三者がいたほうが、相談者にとってよい場合もあります。
「どの商品がいいか」の前に考えることがある
私は、FPに相談する価値の一つは、客観的な視点で全体を俯瞰したアドバイスを受けられることだと考えています。
商品の販売を前提とした場合、保険なら「A社とB社のどちらがいいか」、住宅ローンなら「変動金利と固定金利のどちらにするか」といった観点からのスタートになりがちです。
けれども、商品選択は全体のデザインが決まった最後にするものであり、「保険に入るべきなのか」「入るならどのような保障が必要なのか」など、もっと前段階で詰めておくべきことがあるのです。
インターネットで金融情報を簡単に調べられるようになった今でも、FP相談が必要だと私が思う理由はここにあります。
金利も保険料も商品内容も、自分で調べることはできます。
しかし、
「この情報を自分の場合にどう当てはめるか」
「何を優先し、何を捨てるか」
「この選択をするべきなのか」
という判断には、商品知識とは別の視点が必要です。
数千万円の買い物なのに、「判断」にはお金を払わない?
住宅を購入すれば、数千万円のお金が動きます。
生命保険も、毎月の保険料はそれほど大きく見えなくても、20年、30年と払い続ければ数百万円になることがあります。
住宅ローンなら、借入額や金利、返済期間の違いによって、長い目で見た負担は大きく変わります。
保険、住宅、住宅ローン、資産運用、老後資金まで含めれば、一つひとつの判断の積み重ねが、生涯の家計に数百万円、場合によっては数千万円単位の違いをもたらす可能性があります。
もちろん、FPに相談すれば必ずそれだけ得をするという意味ではありません。
それでも不思議に思うことがあります。
数千万円の家を買うときには、登記費用や仲介手数料などさまざまな費用を支払います。
一方で、
「この家を買っていいのか」
「このローンを組んで大丈夫なのか」
「この保険に入り続ける必要があるのか」
という、自分の人生に直接かかわる判断へのアドバイスには、お金を払うという発想がまだそれほど一般的ではありません。
無料で情報が手に入る時代だからこそ、情報そのものの価値は以前より下がっているのかもしれません。
しかし、選択肢が増え、金融商品や制度が複雑になるほど、「自分の場合の最適解は?」という判断の価値は、むしろ高くなっています。
FPというと無料相談のほうが目に付くかもしれませんが、有料のFP相談という選択肢もある!と知っていただきたいなと思います。
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